Story #6 Lifeguards love Birdie, too! ライフガードたちもバーディーが大好き。

09.14.2015

Birdwell

ビーチトランクスの話

by Rin Tanaka

 ビーチタウンに住む高校生や大学生たちの“憧れのアルバイトや職業”は? カリフォルニアの若者たちに聞けば、“ライフガード”という答えが数多く返ってくるはずです。サーフィン映画『Endless Summer』(1965年)で成功を収めたブルース・ブラウン監督も、かつて駆け出しの頃はライフガードをしながら映画製作をしていました。大好きな海で仕事ができること自体がまず喜びであり、しかも給料が貰えて、毎日ビキニガールに会えることを考えると……やはりこれ以上に魅力的な職業も他にないのでしょう。

 しかしそれ以上に重要なことは、アメリカにおいてライフガードの社会的地位が極めて高いことです。その後のキャリアアップとしては、やはり人気商売である“州立公園の監視員”、さらに福利厚生が良い“消防士”などに転職する際にライフガードとしての履歴は強力なポイントになります。これはアメリカ人の誰もが「ライフガードは重要な仕事だ」と考えているためで、日本とはやや考え方が違うかもしれません。

 長年、ライフガードのためにカスタムメイドのサーフトランクスを作ってきたのが<バードウェル>でした。カリフォルニアのライフガード協会は「赤いトランクス」を昔から規定カラーにしており、さらにビーチごとに作られた特製ワッペンの刺繍オーダーも入ります。いうまでもなく、公共機関で働く人たちなのでまず「クリーンなイメージ」が重要であり、それらの条件を満したサーフトランクスを作れる会社がまさに<バードウェル>だったわけです。昔から<バードウェル>のブランドカラーが赤を基本にしているのも、カリフォルニアのライフガード・カラーとリンクしているに違いありません。

 「真面目なサーフトランクスを作る会社」という社風は、創業者のキャリー・マン、そして娘で2代目社長のヴィヴィアン・リチャードソンの性格そのものが現れた結果でしょう。<バードウェル>は“お母さん社長”の会社なので、真面目でしかし家族的な温かさを売りにしてきた会社なのです。決して、アグレッシブなファッションブランドではありません。逆にいえば、いつの時代でもクラッシックなデザインをしっかりと作れることが、<バードウェル>の強みでもあり、安定感でもあります。

 <バードウェル>が大きく成功した理由は、ライフガードからの需要がカリフォルニアのビーチ沿いに留まらなかったことでしょう。既に1960年代から東海岸のビーチシティーからも<バードウェル>社へ多くのオーダーが入り始めました。なぜなら東海岸には<バードウェル>のようにクリーンで、かつクールなサーフトランクスを作れる縫製工場が結果的に存在しなかったからです。しかも東海岸からはカリフォルニアとは違ったカラーオーダーが入ったため、カスタムメイドを売りにする<バードウェル>には大きなアドバンテージがありました。「それなら<バードウェル>へメールオーダーした方が確実だ」という定評が東海岸にもすぐに届いたわけです。

 さらにサーフトランクスの需要はビーチ以外の世界にも広がりました。全米に無数に存在するプールや水族館にもライフガード的な“水商売”は無数に存在しており、そこにも<バードウェル>の顧客が存在していました。つまりビジネスの可能性は無限大——これこそが<バードウェル>が創業から50年以上経った今なおも存続している大きな理由でしょう。ニッチなビジネスのようで、広大なアメリカ全土から顧客を拾えば「グッドニッチ!」になるのが<バードウェル>なんですね。

 アメリカに行ったら、ぜひライフガードたちのトランスをじっくり観察してみましょう。意外に<バードウェル>製であるケースが多く、思わずニヤリとしてしまうはずです。(次号に続く)

 

こちらは南カリフォルニア・ラグナビーチのライフガードがオーダーしたパッチ入りのサーフトランクです。もちろん、カリフォルニアのライフガードなので、カラーは赤です。「Made in U.S.A.」のレーベルも付いているので、1980年代製でしょう。

こちらも南カリフォルニアのライフガード用サーフトランクスです。やはり1980年代製でしょう。


この写真は、僕がかつて15年間住んでいたサクレメンテ市のライフガードを務めるカイル・ノーヘルムくんが<バードウェル>の工場を訪れた際に撮影された写真です。やはり色は赤で、特製パッチが付けられています。


東海岸はマサーチューセッチ州ナンチュケット・ビーチのライフガードたちの集合写真。みんな普段鍛えあげた身体に<バードウェル>のトランクスがぴったり! これぞ、アメリカン・ライフガードの世界です!


こちらはジェニファーさんが撮影した「バードウェルを着るライフガード」の写真です。トランクス以外にフィンや浮き輪なども赤が規定カラーのようです。Photo by Jennifer Gregory (www.jennifergregoryphotography.com)